ヴィンランド・サガでアシェラッドがブリテン島の歴史について語っている部分があります。まず、ケルト人がいてその後ローマ人が来た。ローマ人は文明と技術をもたらした。次にきたアングル人とサクソン人は破壊しかもたらさなかった。だから、デーン人が暴力でこの土地を奪うのは当然だと。この人種の侵入と定住は非常にわかりやすく欧州の形成を表しています。
欧州の最初はギリシアから
私が持っている歴史の教科書で最初に出てくる文明はオリエントと地中海の文明についてです。この地域は現代だとトルコ周辺の中東のことです。非常に面白い時代なのですがここでは扱いません。オリエントなどの古代文明から欧州に無理やり接続することが欧州史がわからなくなる原因の一つだと思うからです。
欧州で最初に扱う文明はギリシアです。特にギリシア神話は漫画、アニメの元ネタに良く使われていますので知っている名前や逸話があると思います。ただ、どんなに神話を知っていても歴史は分かりません。
ギリシアでオススメの漫画は『ヒストリエ』です。アレキサンダー大王の書記官となるエウメネスを追った物語で、ギリシアの自由市民から奴隷へそしてマケドニア軍の上層部へと波乱万丈な人生を歩んでいきます。
エウメネスが仕えたアレキサンダー大王はギリシアから中東にかけての大帝国をつくりあげます。
ローマ 都市国家から帝政まで
ローマは都市国家からはじまり共和政になりその後帝政に移行していきます。その後分裂して15世紀まで存続します。ギリシャとの関係ですが、ローマが共和制の時代にギリシャ人都市国家を吸収、併呑しています。しかし、ギリシャ文化はその後のローマに多大な影響を与えています。
都市国家から始まったローマがイタリア半島を制し、地中海の覇権をかけカルタゴと激突します。『アド・アストラ』はおそらく世界で一番有名な軍人スキピオとハンニバルの激突と決着が描かれています。この戦争を知らずローマは語れない。
帝政時代のローマ皇帝にとって市民を満足させる公共浴場は重要な公共事業だった。『テルマエ・ロマエ』は浴場設計技師のルシウス・モデストゥスが現代日本にタイムスリップすることでアイディアを得て斬新な浴場を設計していく物語です。
帝政時代のローマにアシェラッドの先祖がいます。それがルキウス・アルトリウス・カストゥスです。2世紀後半から3世紀前半の間に活躍した軍人でテルマエ・ロマエの時代の少し後くらいの人物です。アシェラッドはスヴェン王を斬ったときに同じ名前を名乗っているのですが本当に同じ名前を母親から付けられていたのか、それともウェールズ人の意地としてそう名乗ったは分かりません。ただ、このウェールズの遺恨は長くイギリスという国に付きまといます。
ローマも帝政末期になると広くなりすぎて管理が出来なくなってきます。そこで、ディオクレティアヌス帝はローマを東西に分けてソレゾレに皇帝を立てます。普通、権力を二つに割るようなことを行うと争いに発展するのですが、案外上手くいきます。ただ、このとき皇帝を神として礼拝させてしまい、後の揉め事の原因になります。
キリスト教の成立と帝政ローマ
キリストという人物はちょうどオクタウィアヌスがアウグストゥスの称号を得て帝政が始まった時に生きていました。
イエスを扱った作品は多数ありますが日本人から見ると理解できない部分が多々あります。何と言いますか、なるべくして成ったというような描写が凄く多い。その点、安彦良和先生の描いた漫画『イエス』は日本人が読んだときに、「なるほど、それなら当時の信者が信奉するのも分かる。」と言えます。ただ、敬虔なキリスト教徒からすると受け入れることは出来ない部分があるかもしれません。
『吾が名はネロ』は暴君ネロのを安彦良和先生の描いた作品です。当時起こったローマによるキリスト教徒虐殺は後の国教化への大きな布石となるのでぜひ読んで欲しい作品です。
帝政ローマ末期からフランク王国までの間に
少し時代は戻りますが欧州の北アルプス以北にはケルト人が住んでいました。そこにゲルマン人が逃げてきます。ゲルマン人は4世紀後半にアジアからやってきたフン族に追われる形で欧州に入ってきました。このゲルマン人の移動は個人単位ではなく民族単位の大移動でした。元々、フン族が来る前からローマにゲルマン人はいました。個人で官吏や農民、傭兵として移住していた人たちです。テルマエ・ロマエでルシウスがつくった入浴図を見てた人は傭兵として戦いローマ市民になってるので何気に凄い人です。しかし、民族単位での移動はローマへの移住ではなく、欧州にゲルマン人の国を出現させます。この大移動が原因でケルト人は僻地においやられます。それがウェールズやアイルランド、スコットランドです。そしてローマ帝国もこの混乱から逃れられませんでした。国を西ローマ帝国と東ローマ帝国(ビザンツ帝国)に割ります。西ローマ帝国はゲルマン人と協力してフン族を撃退したりしていましたが、最終的にゲルマン人に滅ぼされます。当時、多くのゲルマン人国家が誕生しましたが、生き残った数少ない国がフランク王国です。ちなみにヴィンランドサガの1巻でアシェラッドに宝を持っていかれたのがフランク族のキリスト教徒だったりします。
欧州(ヨーロッパ)の形成
今の欧州の原型が出来上がったのはフランク王国のカール大帝が欧州地域を統一したことに始まります。そしてカール大帝の死後、三人の息子に分割された国がフランス、ドイツ、イタリアの原型となります。ちなみに略奪を行うヴァイキングですが、始まりはカール大帝がキリスト教の布教と異教徒の排斥を行ったことに対する反発であったと言われています。ヴィンランドサガに出てくるデーン人の宣教師に対する嫌悪感もこのあたりから来ているのかもしれません。
この時代の作品で見て欲しいのは映画『ウォリアー』です。カール大帝の祖父であるカールマルテルと戦ったフリース人の王 レッドボットの物語です。見所はやはり神学が未発達だったキリスト教とその布教活動でしょうか。でてくる宣教師の愛が暴力的すぎです。あと、フリース人ですがオランダとドイツの北海沿岸にいた民族集団で別名をアングル人といいます。そう、アシェラッドが雪につかまり村を占拠した時の話に出てますよ。
さて、祖父と父の意思を引き継ぎ偉業を成したカール大帝ですが、ひたすら戦争をしていました。征服された民族の中にザクセン人がいます。別名をサクソン人と言いこれもアシェラッドが雪につかまり村を占拠した話に出てきます。ただ、イングランドにいたアングル人とサクソン人はカール大帝の征服前にイングランドに渡っています。
カール大帝の偉業からカール大帝の王家はカロリング家と言われます。カロリングは「カールの」と言う意味です。カール大帝の死後、西フランク、中部フランク、東フランクに分裂します。イロイロとあってカロリング家は途絶えます。その後、西フランクを統治したのがユーグ カペーです。西フランクはそのままフランスになり、カペー家はフランス王消滅までずっと王家の血筋であり続けます。
ヴァイキングとノルマンコンクエスト
ヴィンランドサガを読んでもらいましたが、時代としては西暦1000年代初頭の話です。作中でイングランド併合の理由は豊かな土地だからとあります。そう、ヴァイキングも豊かな土地に定住したかったのです。ヴィンランドサガの奴隷編に出てくるケティルのように。しかし、いくらヴァイキングと言えども数十人で略奪した土地に定住はできません。彼らはあくまで船による奇襲が出来るからこそ強いわけで。少数で定位置に居続ければフランク人やイングランド人がいくら弱いとはいえ数には勝てませんし、そんな状態で農作はできません。だから、ケティルは王に貢物をし保護してもらっているわけです。
ただ、実はクヌートの時代よりも前にフランスに定住したバイキングがいました。どうやって定住したかと言うと、あまりにも略奪がすさまじかったためノルマンディをあげるからやめてくれと西フランク王から申し出があったのです。それを受けノルマンディ公になったのがロロです。クヌートが北海帝国を築いている時にはすでにノルマンディに定着しており、なんとクヌートの嫁の実家になります。実はクヌートの周りにいた女性がその後の歴史にかなり影響を与えているのですがヴィンランドサガではあまり詳しく扱われていません。
さて、ここからがかなり説明が面倒なのですが、クヌート一族のその後とノルマンコンクエストそして現英国王室の原点を解説します。
とりあえず、クヌートは戦っていたエゼルレッド2世の嫁さんを自分の嫁にします。名前はエマです。すでにエマはエゼルレッド2世との間に子供がいて、それがエドワード懺悔王です。その後クヌートと結婚してハーデクヌーズを生みます。一応、ハーデクヌーズはデーン系、エドワード懺悔王はサクソン系の王様という扱いになります。ただ、母親のエマはノルマンディ公ロロの曾孫なのでエドワード懺悔王もヴァイキングの血が入っている純粋なサクソン人ではないということになります。血筋の問題もあってかハーデクヌーズはあっさりエドワード懺悔王に王位を譲ります。ただ、エドワード懺悔王は敬謙なキリスト教だったため争いごとを好まず政治も身内に丸投げにします。代わりに政務を行ったのがハロルドです。このハロルドの立ち位置が面白いのです。エドワード懺悔王の嫁の兄であるのと同時にクヌートの姉 ゲーサの息子です。そしてハロルドの父親は純粋なサクソン人でした。この絶妙な血筋のおかげかエドワード懺悔王の死後、イングランドの賢人会はハロルドをイングランド王として認めました。普通なら血族が上手く統合されめでたしめでたしとなるのですが、ここで異を唱える人がいました。それがウィリアム1世です。彼はエマの兄の孫でサクソン系の血はまったく入っていないのですがエドワード懺悔王の親戚でした。エドワード懺悔王が亡命している間に親交があったこともありかなり援助をしています。また、ウィリアム1世が結婚したマティルダがサクソン系の血筋でした。ハロルドとウィリアム1世のイングランド王位の争いは戦争に発展しウィリアム1世がイングランドに攻め込み勝利します。これをノルマンコンクエストと言います。そして、ウィリアム1世がノルマン朝をたて、現イングランド王室の開祖になります。ちなみにウィリアム1世とマティルダの結婚は宗教的な理由で一騒動ありました。このあたりはイギリスらしい話だと思いますので調べてみると面白いかと。
十字軍とレコンキスタ
カール戴冠後、今のドイツ、フランス、イタリアあたりが安定すると当然それ以外の地域に目が移ります。そのとき周辺地域にいたのがイスラム教国家でした。ちなみに、イタリアはドイツのオットー1世に征服されドイツに統合されます。その時に神聖ローマ帝国となります。ただ、ローマとは言ってもローマ人ではありません。ローマ教皇に認められた国ということです。宗教的色合いが強かった神聖ローマ帝国はイスラム教に聖地エルサレムを押さえられてることに不満を持ち奪還にかかります。これが、十字軍の始まりです。それとは別に、アフリカを廻って今のスペイン、ポルトガルまで勢力を伸ばしていたイスラム教を追い出そうとしたのがレコンキスタ(国土回復運動)です。
十字軍の作品は多くありますが海外の作品はキリスト教の常識が前提としていて日本人が見てもイマイチ分からない部分があります。なので漫画『サラディンの日』が読みやくおすすめです。
もう一つのオススメが『インノサン少年十字軍』です。十字軍は後半になると完全に私利私欲の戦争と化してしまいます。私の中での十字軍のイメージは「ロマンと悲惨」ですね。
英仏戦争とドイツ
レコンキスタや十字軍を何回もやったことでキリスト圏はある程度広がりました。ただ、200年近く対外戦争に軍隊をだせばヨーロッパでの勢力もイロイロと変化します。そういった変化が如実に現れたのが英仏百年戦争です。戦争の発端はフランス王位をイングランド王エドワード3世が主張したことです。ノルマンコンクエストと同じで親戚関係の仲たがいなのですが大元はフランスにあったイギリス領をジョン王が戦争で負けて失ったことです。
英仏百年戦争を題材にした作品は『ホークウッド』があります。これは英仏百年戦争に参加した傭兵 ジョン・ホークウッドの話です。この作品に出てくるエドワード黒太子はプリンス オブ ウェールズという称号を授かっているのですが、作中でウェールズの王族が彼に反感を持っているという描写が多数あります。
イギリス有利で進んだ英仏百年戦争ですがフランスの大逆転で終わります。その大逆転を演じたのがジャンヌダルクです。ジャンヌダルク作品は映画等たくさんあるのですが私は『傭兵ピエール』が好きです。聖女と俗人の噛み合わなさが面白かったです。
英仏百年戦争の終結後、イギリスで内輪もめであるバラ戦争が起こります。ちなみにエドワード黒太子の子供たちの争いだったりします。ついでに隣の神聖ローマ帝国も内輪もめをしていました。皇帝が決まらず大空位時代があったり、宗教弾圧からフス戦争に発展したり、スイスの農民が蜂起したり。皇帝の地位がハプスブルク家の世襲になったりと国として様変わりしています。
まず、宗教問題で戦争に発展したフス戦争を題材にした『乙女戦争』です。この戦争は宗教改革の発端になった重要な出来事なのですがなかなか扱った作品がありませんでした。
次はハプスブルク家の圧政から農民が立ち上がり独立するまでを描く『狼の口 ヴォルフスムント 』です。このすさまじい戦いの末、スイスは今も独立を保っています。
イタリアとルネサンス
ローマ帝国分裂後のイタリアは一度東ローマ帝国領となります。しかし、東ローマ帝国はイタリアを維持できず、教皇庁の思惑などもあり分裂状態のまま都市国家として発展をしていきます。その影響で大規模戦争が起きず、商工業や芸術が主体となり文化運動であるルネサンスや宗教改革の原因になったりしました。
この時代のイタリアで一番重要な人物はチェーザレ ボルジアでしょう。彼を描いた漫画『チェーザレ 破壊の創造者』はかなり史実に沿った物語となっています。
『アルテ』はルネサンス期において画家になろうとする女性の物語です。そして、ほぼチェーザレと同時代の話です。アルテが子供のころに体験している戦争はイタリア戦争だと思われます。メディチのジョバンニ枢機卿が軍に帯同していると書かれています。まさしくチェーザレに登場しているジョバンニのことです。そしてこのジョバンニは教皇レオ10世になるのですが免罪符を売り宗教改革の原因になります。
チェーザレが有名になった原因の一つにマキャベリが書いた君主論があります。そもそもマキャベリはチェーザレと敵対していた側の書記官だったので彼を賞賛する理由はありません。マキャベリがチェーザレに魅了されたのは、イタリアが国防を傭兵に頼りきってしまったことで国家として脆弱になってしまったことに対する危機感だと言われています。実は国防を弱体化させた傭兵の一人にジョン ホークウッドがいたりします。彼は100年戦争後イタリアに渡り都市国家間の揉め事で荒稼ぎしたあと、フィレンツェの総司令官となり引退します。フィレンツェはアルテの故郷ですが、彼女が生まれる100年ほど前の話です。
スペインの隆盛
チェーザレとボルジア一家が頑張ったおかげもありスペインはキリスト教圏に復帰し一大勢力になります。このスペインにおける重要人物が『アルテ』に出てきています。それが、カタリーナです。彼女は「カスティリャのファナの娘」と名乗っています。漫画内で解説されているように彼女の母はカスティリャ王国の女王なのです。このカスティリャ王国こそスペインの大元になった国で。カスティリャ王国イザベル女王とアンゴン王国フェルディナント5世の婚姻により誕生したのが今のスペインの原型です。カタリーナとの関係はイザベルの娘がファナでその娘がカタリーナとなります。ちなみにイザベルが援助していたのがアメリカ大陸を発見したコロンブスです。また、カタリーナの父親はフィリップ1世という人で。彼はハプスブルク家出身でローマ皇帝の孫だったりします。カタリーナはスペイン王家とハプスブルク家の両方の血を引くとんでもない人物ということになります。作中でカタリーナが「兄の動向が気になって仕方ないのね。」と言っているのですが、この兄というのが2人いて、一人がローマ皇帝カール5世、もう一人がローマ皇帝フェルディナント1世になる人物だったりします。そりゃ気になりますよ。ついでにカタリーナは4姉妹の末っ子なのですが、上3人はポルトガル王、 デンマーク王、ハンガリー王に嫁いでいます。カタリーナ自身もポルトガル王に嫁いでいます。もうユーリさんなんて比較になりません。最後に、アルテに依頼を出した枢機卿はメディチの関係者です。
カスティリャ王国を扱った漫画で『アルカサル』があります。ちょうど100年戦争と同じ時代の話でエドワード黒太子がかなり深く関与しています。
スペインはカタリーナの甥の時代に最盛期を迎えます。オスマン帝国にレパトンの海戦で勝利し海外植民地をかためていきました。
イギリスと海賊
スペインの隆盛を快く思わない国は当時多数いました。なんせ富はスペイン本国もそうですが、植民地から運び込まれる富が膨大で国際的な力関係を完全に崩壊させてしまいました。そこでイギリスがとった行動が私掠船によるスペインの輸送船襲撃です。まあ、要するに国家公認の海賊ですね。やり方はスペイン本国から離れた場所にいる輸送船の襲撃と殖民都市への略奪なのです。ヴァイキングと同じようなことをコトをやってます。当然、スペインは黙っているわけはありません、イギリスとの対立激化していきます。イギリスはスペインの州だったネーデルランドの独立に肩入れをしたため戦争に発展します。結果はイギリスがアルマダの海戦で勝利し、これが大英帝国全盛期の礎となります。
この時代の映画は面白いのが多いのですがやはり大英帝国といえば『エリザベス』でしょうね。このお方がいないと英国はまとまることが出来なかったでしょう。
つぎは、その続編の『エリザベス:ゴールデン・エイジ』です。この作品ではスペインとの一大決戦であるアルマダの海戦が描かれています。
海賊というと多くの人が『パイレーツ・オブ・カリビアン』をイメージするのではないでしょうか。史実ではないのですがイギリス海軍と海賊の関係の変化などはわかり易いです。
第五作目の『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』では海賊撲滅に命をかけるスペイン海軍のキャプテン サラザールが暴れまわります。ついでにイギリス海軍にも襲い掛かったりしてます。スペインがイギリスを嫌いな理由が分かっているとこの作品は非常に面白いです。
三十年戦争からウェストファリア条約
アルマダの海戦で負けたあとスペインはフランスとの戦争に突入します。この時期に欧州で複数の戦争が重なって起こります。この戦争の総称を三十年戦争と言います。三十年戦争は最後にして最大の宗教派閥による戦争です。フス戦争から始まった宗教内対立ですが、三十年戦争もフス戦争もボヘミアで人を窓から投げたせいで勃発しました。そして、宗派対立に加えてスペインとオーストリアのハプスブルク家とフランスのブルボン家の争いがからみ、その軋轢から独立を目指す勢力が活性化します。特に国家としてまとまっていなかった神聖ローマ帝国は皇帝の権威強化のために激しい宗教弾圧を行いました。
三十年戦争をあつかった漫画に『イサック』があります。日本人傭兵イサックが仇をもとめてオランダに渡り傭兵として三十年戦争に参戦する話です。作中に登場するプリンツ・ハインリヒという人物はフリードリヒ五世の妾腹の弟ということになっているのですがそういった人物は確認できませんでした。しかし、プリンツ ハインリッヒというホテルが舞台だと思われるマインツの近くにあるのです。そのホテルのあるダルムシュタットがおそらくフックスブルク城という設定なのだと思います。史実でダムシュタットは三十年戦争時に防衛設備が貧弱だったため捨てられたそうなのです。
さて、『乙女戦争』と『イサック』を読んだ人は二つの作品における宗派のあつかいに違和感を覚えなかったでしょうか。『乙女戦争』だとフス派は完全に否定されていますが、『イサック』では宗派を自分で決める権利があるのです。この変化の真っただ中を描いた作品が『辺獄のシュヴェスタ』です。前半は魔女狩り全盛のヨーロッパの世情が描かれていて宗教対立とは無縁に思えます。しかし後半に入ると一気に宗教対立が鮮明になります。そして登場人物たちの過去が一気につながり、結果的にパッサウ条約の一因となります。このパッサウ条約こそカトリックとプロテスタントの共存が定められた条約です。『イサック』に登場するエリザベート女男爵が違う宗派であるハインリッヒを堂々とかばい、「自分には自由に信仰を選ぶ権利がある。」と言っています。
ちなみに、漫画の舞台となったライン川とドナウ川の分水嶺というのはシュトゥットガルトとベルンの間にある山地だと思われます。そこにクラウストルム修道院のモデルになったような修道院があります。さすがに漫画みたいな逸話があるわけではありませんが、カトリック系の黒き森の修道院です。
三十年戦争はウェストファリア条約を持って終結します。このウェストファリア条約が非常に重要な条約でして。ここで初めて主権国家が確立します。それまでの国というのは王様がある意味勝手に宣言して周囲がそれに追従するような形でした。一つの地域を複数の諸侯が所有宣言したり、一人が複数の君主をもったりできたのはこの曖昧さからだと思います。しかし、ウェストファリア条約は欧州の大国のほとんどが参加したため、これで何処が誰の土地で国か確定したことになりました。ちなみに、ヴォルフスムントの時代から約350年たったこの条約でスイスは独立します。そして、 スペインフランス戦争の終戦条約であるピレネー条約をもってスペインの黄金時代は終わりを迎えます。
重商主義と啓蒙主義
土地と国が誰のものか確定すると君主は国を富ませようとします。領民や商人に丸投げしていた経済活動に国が介入していきます。結果、貿易による国富増大を目的とした思想、政策が主流になります。これを重商主義と言います。効率的に国を富ませるために、君主は自ら主導で改革を行いました。これを啓蒙専制君主と言います。そして増大した富を使い軍拡を行い、植民地をめぐって欧州内で争いを繰り返します。
貴族と聖職者が富を独占し農民は困窮する。それが極限まで達すると反乱が起こります。『イノサン』はフランス革命で国王ルイ16世の処刑を執行したシャルル アンリ サンソンの物語です。作中で描かれているフランス農民の困窮は日本の火山活動による冷夏が原因だと言われています。フランス革命の根本は困窮する農民を救済できなかった失策のせいだったと思います。実際、ルイ16世が行おうとしていた改革に貴族と聖職者への課税があり、これを第三身分である平民の力を使うことで成し遂げようとしています。このような対応からルイ16世は絶対王政ではなく啓蒙専制君主に近いと言われています。
『イノサン』の続編である 『イノサン Rougeルージュ 』はシャルル アンリ サンソンがギロチンを思いつき実際に国王処刑から反革命派の処刑まで使われる物語です。ちなみに『イノサン』シリーズはかなり残酷なシーンがあるのですが、実際のフランス革命はそれ以上に残酷なことが行われています。また、処刑されたルイ16世ですが作中、処刑直前にルイ・カペーと呼ばれています。かなり珍しい呼び方なのですが王権が剥奪されているからでしょうか、カペー家の苗字で呼ばれています。ユーグ カペーよりずっとフランス王がカペー家で有り続けた証と言えます。
作中、ルイ16世を失脚させようとしていたルイフィリップは平等公などと名乗ってルイ16世を死刑に持ち込みはしました。しかし、そのせいでフランス革命が激化、啓蒙主義が王政をフランスから消し去ってしまったのは皮肉です。また、ルイフィリップですが他の作品だと謎の多い美貌のプレイボーイとして描かれていたりします。
フランス革命後国は安定せずに帝政に移行します。初代皇帝になったのがナポレオンです。『ナポレオン~獅子の時代~』は若き日のナポレオンを描いた作品です。『イノサン』のナポレオンとキャラが違いすぎて戸惑うかもしれません。
『ナポレオン~覇道進撃~』は。『ナポレオン~獅子の時代~』の続編です。皇帝ナポレオンの黄金時代を扱った作品となります。
ウィーン体制と国民国家
ナポレオンが失脚した後、欧州列強は協力してウィーン体制による政治安定をめざしました。それは、フランスでブルボン王家を復活させたりするなどフランス革命前の体制を維持するモノでした。しかし、ナポレオン体制で広まった自由主義と国民主義を押さえ込むことはできず、産業革命の広がりと共に近代国民国家へと変わっていきました。
産業革命を経て世界の工場として繁栄の絶頂にあったヴィクトリア朝時代のイギリス。そこでは豊かになり選挙が行われるようになったとはいえ階級社会が厳然と存在していました。そんな時代に違う階級の男女の結婚を描いた作品が漫画『エマ』です。
映画『ルートヴィヒ』は後にドイツ帝国に統合されるバイエルン国王ルートヴィヒ二世の人生を描いた映画です。彼は音楽をこよなく愛しワーグナーという作曲家に傾倒し国の経済を危うくしてしまいます。また、ワーグナーという人物は変わり者で有名で、思想家としてゲルマン民族の民族意識に多大な影響を与えました。
この時代の映画やドラマ、漫画は恋愛モノが多いです。特に階級差のある恋愛物と上流階級の結婚モノでしょうか。あと、階級差別もそうですが人種差別全盛期です。要するにこの時代はどこを突っついても差別が出てきます。現代では歴史的な事実だとしてもそれらを娯楽作品として世に出すことを良しとしないのでナカナカ面白い作品が出てこないです。
20世紀から現代にかけて
ここまでの解説はあまり年代を書かないようにしてきました。ですが、20世紀ははもう現代に繋がっている時代だと言っていいです。そして何よりも映像が残っている時代です。なので娯楽作品もドキュメンタリを選ぶ方がいいかと思います。
『映像の世紀』は下手な映画よりも面白いドキュメンタリです。20世紀を学ぶなら最初に見るべき作品でしょう。
『新・映像の世紀』は新たに発掘された映像を織り込まれて再編集されたモノです。両方見る必要はないかも知れませんが編集やナレーションがかなり違うので個人的には両方見て損をしたとは思いませんでした。
欧州史の最後に
欧州は統一されたことがほぼ無く一つの国家や地域を追うだけでは理解できません。そのため中国史ほど時代ごとには扱えませんでした。しかし、同じ時代の作品を絡めて紹介したり、その後への影響や関連を出来るだけ解説したつもりです。ただ、どうしても説明があやふやになってしまう部分がありました。紹介した作品の解釈による部分もあるのでご容赦ください。
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